音声圧縮 Audio Compression

オーディオファイルの大きさを削減するデータ圧縮のこと。
汎用のデータ圧縮アルゴリズムは音声データには適さず、あまり圧縮できない。そのため、音声向けの可逆圧縮アルゴリズム(ロスレス:Lossless)や非可逆圧縮アルゴリズム(ロッシー:Lossy)が生み出された。

ロスレス

ロスレスは、元の音声情報を失わずにデータ量を削減する方式。(※1)
音声データの規則性を利用して圧縮し、再生時には元の音声を完全に復元できる。そのため、録音時の音質を完全に維持できることが最大の特徴である。ただし、最大でも元のデータの50%程度までしか圧縮できない。

ロッシー

ロッシーは、人間には聴こえにくい、あるいは気が付きにくい音情報を省略することで、大幅にデータ量を削減する方式。(※2)
通信量を抑えられる反面、一度削除した情報は元に戻せない。
音楽を楽しむことはできるが、音の艶や質感、余韻、空気感といった微細な情報は失われやすい。
その代わり、元のデータの5%~20%まで圧縮することができる。

圧縮とイマーシブ・オーディオ

当研究所が推進するイマーシブ・オーディオの録音法は、AB録音法を拡張した時間差録音法である。
チャンネル間に含まれる微小な時間差・位相差・相関差そのものが、空間の広がりや奥行きを形づくる空間情報となっている。しかし一部のロッシー圧縮(※3)では、この位相や時間の情報が簡略化されることがあり、包み込まれ感や拡がり感が損なわれる場合がある。
そのため、イマーシブ・オーディオには情報を失わないロスレス圧縮が推奨される。
さらに、CDを超える情報量を持つハイレゾ音源(※4)と組み合わせることで、より自然で豊かな空間表現が可能になる。入交イマーシブ・オーディオ研究所では、より深い臨場感を実現するためには、イマーシブ・オーディオにこそハイレゾが必要と考えている。実際、イマーシブ・オーディオで試聴すると、ロッシー音源とロスレスやハイレゾ音源との差が、ステレオ再生で聴くよりも知覚しやすい。

※1 ロスレスの数学的な仕組みの例:

音声は水面を伝わる「波」のようなものなので、隣り合う波の高さのデータには極端な跳躍がない。従って、波の高さデータそのものを送るよりも、隣り合う高さの差分のデータを送ることにより、情報量を削減しつつ完全なデータを送ることができる。

※2 ロッシー圧縮の仕組み:

知覚符号化、音響心理符号化とも呼ばれる。
人間の耳の特性(聴覚心理学)を利用して、「人間には聞こえない音」や「気付きにくい音」をデータから削る音声圧縮技術のこと。代表的なものにMP3やAACと呼ばれる方法がある。

  1. 人の聴覚には、周波数(音の高さ)によって聞き取れる最小の音量が異なるという特性がある。(最小可聴限という。)
  2. また、大きな音と小さな音が同時に再生されるとき、小さな音が聞こえにくくなるという特徴がある。(マスキングという。)

すなわち、聞き取れる最小の音量より小さい音成分と、大きい音で掻き消させる音成分を捨てても、人は気づかない。
この処理を行うことで、音楽の全体的な印象をあまり損なうことなく、データ量を元の10分の1程度にまで軽量化することができる。

※3 多チャンネルのロッシー圧縮:

Dolby Digital系やMPEG-Hなどのロッシー符号化では、ビットレート削減のため、チャンネル間の相関を利用したjoint coding、channel coupling、あるいは空間情報のパラメータ化が用いられる場合がある。特に高域では、複数チャンネルを完全に独立した波形として保持するのではなく、共通成分とチャンネル別のレベル/包絡情報として扱う方式が採られる。
一般的なパンニング主体のミックスでは、この処理による大きな違和感は生じにくい。しかし、時間差AB録音を基礎とするイマーシブ録音では、チャンネル間の微細な遅延、位相差、相関の揺らぎ、残響や反射音の非相関成分が、空間の密度、距離感、奥行き、包囲感を支えている。
したがって、音色や大まかな方向感が保たれていても、ロッシー圧縮により空間情報が平滑化・共通化され、録音時に捉えた自然な空間感が減少すると考えている。

※4 ハイレゾ:

ハイレゾリューション音声の略語。CDを超える情報量(サンプリング周波数や量子化ビット数)を持つ音源のこと。CDではカットされている20kHz以上の高音域成分や、より微細な音量変化を記録できる。

人は20kHzまでの音しか聴こえないという研究を元にCDは20kHz以上の情報を削減している。しかし、確かに、20kHz以上の「単音」が聴こえる人はごく僅かだが、かなり多くの人がハイレゾとCDの音質差を判別できる。また20kHz以上の情報の有無により脳波出現の特性が異なるという研究もある。

因みに、高性能な再生環境におけるアナログレコードには、50kHz近くまでの情報が記録されている場合もある。